「近衛秀麿 亡命オーケストラの真実」

戦前から戦後にかけてヨーロッパで活躍した指揮者近衛秀麿の評伝を読みました。

「戦火のマエストロ」 
「近衛秀麿 亡命オーケストラの真実」
            菅野冬樹

戦後長い間極秘となっていた、近衛秀麿による大戦中のユダヤ人救済の真実に迫った本書は、現代に生きる日本人として音楽に携わるものとして必読の価値のあるものでした。

以前、NHKのドキュメンタリー番組でその知られざるエピソードの断片を知り、もっと詳しく知りたいと思っていたところ、番組原稿にその後の研究結果や調査資料をまとめた本書に出会いました。

音楽家の評伝は、今まで数多く読んできており近衛秀麿のことも偉大な日本人音楽家として認識していましたが、戦中ナチスの台頭するドイツでユダヤ人を救済する活動に身を投じていたことや、実兄である元  内閣総理大臣近衛文麿の命を受けてアメリカとの和平交渉に臨んでいたことは知りませんでした。

戦中、同盟国ドイツの政策にドイツ駐留中の日本人音楽家が反旗を翻していた事実を、近衛秀麿本人は勿論のこと家族や関係者も口を閉ざしていたとのことで、公にはなっていませんでした。

執筆者である菅野冬樹氏による40年に及ぶ熱意ある調査の結果、ようやく今その真実が明らかになりました。

当時、一人の日本人音楽家がなぜこのような事を成し得ることができたのか。

事実は予想以上のものでした。

近年ホロコーストに関する手記が世界中で新たに出版されていますが、今だから語りえる事実や明かすことのできる真実があるのだと思います。

大戦中の近衛秀麿の行動や活動についてはまだまだ謎となっている部分が多く、今後も研究調査は続くようです。